第19回 建物の資産価値向上のための知っておくべき「BCP」特集

はじめに


政府の地震調査委員会は、昨年の元日に発生した能登半島地震や、その後各地で継続的に発生する地震を検討し、本年1月、南海トラフ地震の30年以内の発生確率を、これまでの「70〜80%」から「80%程度」に引き上げました。これは南海トラフ地震が「いつ起きてもおかしくない段階」であり、引き続き大地震に備える必要があることを示しています。
また人間の活動が地球温暖化に影響を及ぼした結果、台風の大型化とその遅延・居座り、ゲリラ豪雨、線状降水帯などが、毎年のように発生する事態が続いています。風水・土砂災害にも常に備える必要が浮上してきています。
このような近年の災害頻発に対処し、経済活動をいち早く復旧・復興させるために、政府は「国土強靭化」政策を推進しています。その手法の一つにBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)が含まれます。
ここでは主に建物オーナー様向けのBCPについて触れていきます。


1.BCPの本質



図1を参照してください。B C Pは事業継続計画を指しますが、BC、すなわち事業継続の本質は「災害などで減少した経営資源を、一番重要な業務(図1の場合は業務B)に集中させて業務を継続し、顧客から報酬を頂く」ことです。

これを建物管理側のビルメンテナンス業界に寄せて表現すると、「南海トラフ地震で重要顧客のビルが利用不可能となった。一方の重要顧客の病院は、災害による負傷者受け入れ等、普段以上に衛生維持等が求められている。病院業務に必要な従業員を派遣して建物管理業務を遂行し、報酬を頂き、従業員やその家族の雇用を守り、会社を存続させる」と表現できます。

一方、建物オーナー側の観点では、事前に重要顧客が入居する建物を取捨選択し、建物管理が継続するように修繕計画等に基づいて対処する必要があります。
また発災後は、インフラチェックができる設備員、携帯トイレなどを活用して衛生維持を継続する清掃員※1など、ビルメンテナンス業者と密な連携を図り、彼らの経営資源である人材を災害時に優先的に投入する手筈を整えることが重要になります。

災害の程度は「軽微→甚大→壊滅」と推移し、甚大・壊滅は対処しようがありませんが、“建物管理の事前対策”だけは人間の手で対処可能です。本年は“阪神大震災から30年目”の節目にあたります。これを機に重要顧客が入居する建物の事前対策を検討することをお勧めします。


2.BCP策定のメリット

ここでは「建物の資産価値を維持・向上させる」観点から建物オーナー側のBCP策定メリットを確認します。
資産価値が高い建物はテナント誘致に関係するので、まず建物を利用するテナントがBCPについてどのような意識を持つかを確認します。

1)B C Pに対するテナントの認識
図2.メインオフィスを設置する物件にあると良い要件
出所:ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィス需要調査2022春」
この調査では、入居する建物に求める要件の第4位に「BCPに適応する」が含まれています。
このことから「BCPに適合した建物は、テナントがメインオフィスとして利用する可能性が上がる」というメリットがあることが確認できます。

2)建物の資産価値向上施策に関するビルオーナーとテナントの認識
次に「建物の資産価値が高い」と考える施策について、ビルオーナーとテナントの関心度を確認します。
図3.ビルオーナーとテナント企業の関心度比較
出所:ザイマックス不動産総合研究所「ビルオーナーの実態調査2023」
図3に示す赤丸はビルオーナーとテナントの関心度のギャップが大きい項目を示します。
特に上の2つの項目「非常用発電設備」「無停電電源設備」は、いずれも「非常時に電気が使える環境が建物の資産価値が高い」とテナント側が考え、非常に高い関心があることを示しています。

関心度のギャップはさておき、無停電電源設備の導入等、災害時でもある程度のテナントの執務環境を継続させる施策を事前に実施しておくことが、ビルオーナー側が策定すべきBCPであり、その結果として、テナントの入居率や満足度があがることが、BCPを策定するメリットであるといえます。


3.BCPを策定するには

詳細は省きますが、内閣府や経済産業省、中小企業庁が企業のB C P策定率を上げるために試行錯誤した結果、「事業継続(B C)できれば、その企業にあったやり方で良い。時間をかけて膨大な事業継続計画書類(BCP)を作成する必要はない」と結論付けています。そして計画よりも実行力を重視する観点から「事業継続力:Business Continuity Power(BCP)」という表現も使うようになっています。
ここでは事業継続力を上げるために必要な、最低限の書類活用について紹介します。

1)事業継続力強化計画
中小企業のための簡易なB C Pで「事業継続力強化計画」と呼ばれます。
これを策定し、経済産業大臣に認定されると、税制措置や金融支援、補助金の加点などの支援が受けられます。
図3に含まれる「無停電電源装置」「耐震・制震・免震装置」等の導入に関しても税制措置が取られるのでビルオーナー側の皆さんは検討されると良いでしょう。
参照先:独立行政法人 中小企業基盤整備機構 災害対策支援部 災害対策支援課

2)静岡県事業継続計画モデルプラン(入門編)
災害対策先進県の静岡県のB C Pは充実かつ簡潔にまとめられています。BCP策定にあたっては社員全員に認知してもらう必要があります。
まず、参照先のH Pより『BCPの入口』を引用し、自社の「ヒト・モノ・金・情報」について考える機会を設けます。
次に『B C Pモデルプラン』の共通フォーマット作成に取り掛かりましょう。
これは表紙や目次を除けば6ページ程度で「基本方針」「被害状況の想定と影響評価」「事前対策実施」「緊急時の体制整備」「BCPの定着と運用・改善」という内容になります。
このフォーマットの良いところは「掲示用」書類がついており、策定した6ページ分をA3両面にコピーして掲示することが可能な点です。BCPを“絵に描いた餅”にしないために常日頃目につく場所に置き、都度訓練を繰り返し、最終的にはBCP書類を見なくても、速やかに災害対応に行動できる能力、事業継続力こそが重要となります。
そのための適切なフォーマットです。
参照先:静岡県事業継続計画モデルプラン(入門編)

3)災害時避難所衛生マニュアル(一般社団法人 大阪ビルメンテナンス協会)
※1で示したように、建物管理側が災害時に待ったなしで対応を迫られるのが「トイレ問題」です。
これに対応するために、(一社)大阪ビルメンテナンス協会ではマニュアルを作成し、上下水が使えない状況下での携帯トイレを用いた衛生維持の方法等を掲載しています。
現在、(一社)大阪ビルメンテナンス協会HPに簡易版マニュアル、またDVDも近日発売予定なので参照されると良いでしょう。

2025年4月発売予定「災害時の避難所におけるトイレ清掃の基本と注意点」


災害復興全国体制・協定の策定(公益社団法人 全国ビルメンテナンス協会)
全国協会でも、「避難所衛生マニュアル」などの災害発生時に役立つさまざまなツールを提供していますので、ぜひご活用ください。
災害復興全国体制・協定の策定(公益社団法人 全国ビルメンテナンス協会)

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